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劣等処遇としての生活保障(丸山 2021: 43-4)
生活を保障するための福祉国家の制度は、保険と扶助とに大きく分けられる。人は基本的に働くことが期待されているが、なんらかの事情でそれがかなわないとき、こうした制度が生活を保障する。そのうち雇用保険、医療保険、年金などの社会保険は、労働をし、その報酬から保険料を拠出することになっている。したがって生活保障が必要な状態、つまり失業したり病気になったり高齢になった場合にも、拠出したことに対する権利として給付が行われるため、利用にあたって資力調査がされることはない。一方、生活保護に代表される扶助は、なんらかの理由で社会保険から排除されているときに、拠出なしでも最低限の生活を保障される制度である。したがってそれは、権利ではなく恩恵としての利用となっているために、スティグマをともなうものであり、受給に際しては資力調査が行われるとともに、その生活水準は最低限度のものにおさえられている。
したがって、保険と扶助とのあいだには、序列が存在しているのである。そしてこの序列は、男女の分断とも重なっている。男性は、賃労働に就くことが期待されているため、なんらかの事情でそれがかなわなくなっても、社会保険に結びつきやすい。一方、女性の場合には、家庭で再生産労働を担うために、雇用期間が十分に長くなかったり、賃労働をしていても低賃金の仕事になりやすく、そうなると生活保障が必要になったときには、社会福祉や公的扶助の利用に結びつきやすい。つまり、保険と扶助は二層構造になっており、男性と女性に不均衡に配分されているのである。
そのため、男性が社会保障の網から漏れ、社会福祉や公的扶助を利用しようとするときには、稼働能力の有無が厳しく問われることになる。稼働能力があると判断されると、現実には仕事がなかったとしても、福祉や公的扶助の利用は認められずに、野宿生活に陥ることになりやすい。一方、女性の場合には、そもそも雇用保険や年金の対象にならない、社会保険の利用から排除された低賃金の働き方の人が大半を占めているため、男性と比べて福祉や公的扶助の利用が認められやすいのである。しかしその利用はスティグマをともなうものであり、利用に際して必要な資力調査は、女性本人の財産や収入だけではなく、収入をもたらしてくれる可能性のある男性関係にまで及び、生活の細部にわたって監視や管理が入り込むことになる。
以上のように、女性は就労や社会保障の受給にあたって不利益を受けており、家を出て独立して生計を営むのが困難な社会的条件がある。しかし男性関係にまで及ぶ屈辱的な資力調査や、最低限度の生活を受け入れる限りにおいて、女性は福祉制度や公的扶助を利用しやすく、それらが路上に出る一歩手前で女性を受けとめているというのが、女性の野宿者が少ないもうひとつの理由であろう。
丸山里美,2021,『女性ホームレスとして生きる——貧困と排除の社会学 増補新装版』世界思想社