架空のライフストーリーを作ろう

  • 想像上のライフコースのありそうな“架空のライフストーリー”をつくってみよう。狙いは当時の社会情勢が書かれた資料や統計を読み解くこと。当時の人たちがどのような人生を歩んでいったかを考えてみよう。
  • ライフストーリーとは、個人の「生きられた経験の語り」(小林 2016[1])。生活の語り、人生の語り。実際にはたとえ一生全体が語られていなくとも、〈現在の私〉が個人の歴史性にもとづいて〈過去の私〉を語るもの。
  • ライフストーリーの主人公は現在も生きているという設定。特別な人生ではなく、「ありふれた」人生であることを心がけること(メディアに取り上げられるような人ではない)。
  • 架空のライフストーリーは各自メモをしておき、提出すること(内容はクラス内で公開されます)。

1.スペックを設定しよう

(1) 生まれた時期を設定する(出生コーホートの決定、いずれかを選択)

   1940年生まれ   1960年生まれ

(2) 性別を設定する(このなかから選択)

  女性   男性

(3) 出身地を設定する(今回は日本国内。具体的な地名も考えること。地域によって産業構造が異なる。主人公が生きた時代にその地域ではどのような産業が発展していたかを調べてみると良い)

  大都市都心   大都市近郊   地方都市   農村   その他

(4) その他、条件を前もって規定してもよい。

2.APC効果について考えてみよう

A(aging)効果にはどのようなものがあるか

誕生、進学(高校、大学、その他)、就職、結婚、離婚、死別、昇進、転勤、退職・・・・

P(period)効果にはどのようなものがあるか(ネットを使って調べてみてもよい)

 1940年代:都市部における空襲、第二次世界大戦終戦、引き揚げ、戦後のベビーブームなど

 1950年代:大都市への移動(都市化)、高度経済成長の始まり、55年体制など

 1960年代:学生運動、高度経済成長、郊外化

 1970年代:中東戦争、ベトナム戦争、オイルショック

 1980年代:新保守主義の台頭、消費税創設、バブル景気、冷戦の終結

 1990年代:阪神大震災、インターネットの普及、携帯電話の普及、平成不況

 2000年代:9.11、ITバブル、リーマンショック、スマートフォンの登場

 2010年代:東日本大震災、子どもの貧困問題、高齢社会、人口減少社会

学生が考えた架空のライフストーリー(1930年生まれバージョン)

  • 1930年東京都に生まれた。彼は、戦時中の1943年、13歳の時に、祖父母の住む長野県に家族で避難。父は戦争で亡くなってしまったが、避難した家族みんな、戦争を生き延びることができた。16歳の時に長野の農村部にある高校に進学。高校では野球部でピッチャーとして活躍し、一つ年下のマネージャーと付き合う、農業高校を卒業したのち、彼女と結婚。一人娘の彼女の家のぶどう農家を継ぐこととなる。彼が22歳の時に第一子誕生。息子も親同様、農業高校を卒業し、親の反対を押し切って東京の大学の農学部に進学。1970年代のオイルショックにより、日本は不景気になり、フルーツ全般が売れなくなってしまい、ぶどう農家は徐々に赤字になってしまう。息子は大学卒業後、就職し、職場で出会った女性と結婚。しかし、就職から5年が経った頃、彼は離婚しシングルファーザーに。そして長野の実家のぶどう農家に戻ってくる。そこで、彼が大学在学中と職場で学んだ知識を活かして、老若男女が親しみやすい、ぶどうジュースをつくる。そのぶどうジュースは大当たりし、一気に儲かり、ぶどうジュース一本で家族みんなを養えるようになる。彼は当時では珍しく子どもは一人しか恵まれなかったが、長男がぶどうジュースを当てたおかげで、何不自由なく長野で暮らすことができ、68歳で他界した。
  • 1930年に九州の農村で生まれた。裕福な家で育ち、1936年に尋常小学校入学。1942年に卒業、高等女学校進学。軍需工場に駆り出される。1945年、空襲で家が焼ける。学校を退学して結婚。1948年長男を生み、2年後に長女、また一年後に次男を生む。専業主婦として子供を育てる。1966年長男が大学に進学、上京。他の子供も大学に進学。長男と次男はマルクス主義に傾倒し、帰省すると酒を飲みながらインターナショナルを歌う。モラトリアム期間を終えて子供が九州に帰って就職、結婚。夫と二人暮らしするが認知症が悪化し老人ホームに入る。

APC効果を考えるための資料集


[1] 小林多寿子,2016,「ライフストーリー法」工藤保則・寺岡伸悟・宮垣元編『質的調査の方法――都市・文化・メディアの感じ方 第2版』法律文化社,71-83.