『桐島、部活やめるってよ』における対面的相互行為

シナリオ作家協会年鑑代表シナリオ集編慕委員会編,2013,『’12年鑑代表シナリオ集』シナリオ作家協会より抜粋

シーン12 放課後の直前/教室

友弘が教室に走り込んでくる。入り口付近で前田涼也とぶつかる。前田が持っていた雑誌が床に落ちる。

友弘「(全く気に留めることなく)あわり」

遅れて入ってくる竜汰と宏樹。落ちた雑誌をちらっと見て、そのまま席へ。

雑誌を拾う前田。

竜汰の席に座っている梨紗。そのまわりに沙奈、かすみ。

竜汰「(梨秒たちに)自分の席に戻りなさーい」

沙奈「(楽しそうに)ちょ、なんで濡れてんの手」

竜汰「トイレ行って来たから」

梨紗「(楽しそうに)や最悪!」

沙奈「(竜汰のパーマを触り)やーーきもちいー!ほらかすみもー」

竜汰「バ、触んなバカ!」

沙奈/梨紗/かすみ「ははは!」

窓際、最後列の席に沢島亜矢。MP3プレーヤーで音楽を聴いている。盛り上がる竜汰と女子をぼんやり見ている。その目の前に突然、宏樹が割って入ってくる。沢島の前の席が宏樹の席。イヤホンを外す沢島

担任が入ってくる。

担任「座れ寺島」

竜汰「うゎー」

竜汰、自分の席へ。それを見て笑う生徒たち。

担任「はいじゃあこれ回して」

配られる用紙。

沙奈がふと宏樹の方を見る。そっと手を振る沙奈。

それに気づき、顎で前を向けと返す宏樹。

それがだけど嬉しい沙奈。

進路希望調査票と書かれた紙が宏樹に回ってくる。宏樹は一枚取ると、もう1枚を後ろの沢島へ回す。

沢島、黙って宏樹から紙を受け取る。

担任「いいか、来週の水曜に提出。2年の2学期に書く調査票は一番大事です。ようく考えて、保護者ともようく相談して」

宏樹「(小さく)も言ってたよ同じこと」

宏樹、窓の外を見る。葉の落ちた枝。

「起立」の声に立ち上がる生徒たち。

「礼」の声。

がやがやと出て行く生徒たち。

宏樹が、調査票を無造作に折り畳んでポケットに突っ込む。黒い大きな鞄を持って立ち上がる。沙奈が宏樹に近づいてくる。

沙奈「宏樹」

その背後で、楽譜を抱え教室を出て行く沢島の姿

竜汰「宏樹!ダッシュ!」

廊下から竜汰と友弘が呼んでいる。

宏樹「悪い」

沙奈「後で行くね」

宏樹、鞄を抱え教室を出ると、竜汰、友弘とともに廊下を走り去る。見送った沙奈は梨紗の元へ。同じく廊下のほうを振り返っていたかすみ、後ろの棚からバドミントンのケースを取る。

風助「(廊下側の窓から声をかける)久保」

久保「悪い、オレ提出残ってるから先行っといて」

風助「ああ? 桐島怒るぞ」

久保「適当言っといて」

シーン13 放課後/廊下

風助「(窓から離れながら)急げよ!」

別のクラス(風助と同じ)宮部実果が、鞄とバドミントンのケースを持ってくる。

風助と、ぶつかりそうになる実果。

風助「ごめん」

実果「うん」

走り去る風助を見送る実果。

シーン14 放課後/教室

沙奈「ね、今日も待つの? 桐島くん」

梨紗「待つよ」

かすみ「偉いねぇ毎日」

沙奈「影のキャプテンだから」

梨紗「影?」

女子たち「(笑う)」

かすみ「(入って来た実果に気づいて手を振る)」

沙奈「つかついに関東選抜だからね」

梨紗「(まんざらでもなく)いいよもう」

実果「なになに?」

沙奈「だから桐島くんが、(久保に)ねねバレー部ぅ。関東選抜なんでしよ桐島くん」

久保「(鞄に荷物を詰め込みながら)あ?んん」

かすみ「ほら今日の朝礼で」

実果「あはいはい!」

梨紗「(まんざらでもなく)いいって」

沙奈「(久保に)ねえ、もしかして行けるんじやない?全国」

久保「あ?んん」

沙奈「すごーい!応援行くから、絶対行ってよ、ねー丨」

女子たち「(笑う)」

久保「(照れくさそうに)オレ、提出」

久保、去る。

沙奈「提出とかあるんだゴリラにも」

梨紗「今絶対勘違いしたよ」

実果「(笑いながら)え、沙奈は?帰んなくていいの?」

沙奈「(一転不機嫌そうに)あ?宏樹次第ですけどなにか?」

実果「えなに?今日もバスケ?」

沙奈「まあはい」

実果「じゃやればいいのに部活」

沙奈「は?」

かすみ「ちが、桐島くんが部活終わるの待ってるだけなの。同じ塾だからあの人たち」

実果「えそれであんな毎日?」

沙奈「変なとこでつるむんだよ男って」

かすみ「まだ野球部やめてないんだよね?」

実果「宏樹?」

かすみ「だってまだ使ってるよ?鞄」

梨紗「まなんでもできそうだよね宏樹は」

沙奈「え野球とかガチでやだ、坊主だし泥まみれだし、」

梨紗「いいじゃん。ー緒に待とうよ終わるの」

沙奈「えー!」

かすみ「似合うよきっと坊主も」

沙奈「まあ顔がいいからね」

梨紗「死ね」

沙奈「体もいいからね」

実果「下ネタ」

女子たち「(笑う)」

実果「(小声で)ていうか待って」

沙奈の視線の先に、映画雑誌を読む前田涼也の背中が見える。いつの間にか他の生徒はいない。

前田、女子たちには眼を合わせず、雑誌をめくっている。

実果「(小声で)聞かれてんじゃない?」

沙奈「いいよ別に。あ、なんだっけ今朝の、武文がトイレから戻ってきたらしく、手を制服の裾で拭きつつ現れる。

武文「お待た」

前田「あ、うん」

前田、武文、出て行く。

沙奈「(真似るように)お待た」

沙奈/実果「きゃー!」

梨紗「聞こえるよ」

実果「なんだっけ、タイトルでしよ?オレの熱いなんとかを拭け?」

沙奈「(笑って)なにそれAV?」

沙奈/梨紗/実果「ははは―」

実果「(かすみに)えなんだっけなんだっけ?」

かすみ「忘れちゃった。(実果に)ね、そろそろ」

実果「あうん」

かすみと実果、肩にラケットが入ったケースをかける。

シーン15 放課後/廊下

教室を出る4人組。

沙奈「よくやれるよ部活とか。そんな楽しい?」

実果「まあ、私の場合は内申だからねえ」

沙奈「え、やっばそれ重要?」

かすみ「沙奈は大丈夫だよ。テストの成績だけでじゅうぶん」

梨紗「え待って、あたしは?」

かすみ「え……ちが、そんな意味で言ったんじゃ、」

沙奈「冗談じゃん、も真面目ぇー!(笑う)」

笑う梨紗・沙奈・実果。遅れてかすみも。

片山が来る。

片山「前田、まだ教室にいた?」

梨紗「?」

かすみ「さっき出て行きました」

片山「お、じゃ(急いで行こうとする)」

沙奈「あ先生。先生先生!」

片山「?」

沙奈「先生、映画のタイトル。なんだっけ、映画部、タイトル」

片山「おお、『君よ拭け、僕の熱い涙を』。え?もしかして興味ある?」

沙奈「ありがとうございます失礼します」

反対方向へ再び歩き出す四人。

沙奈「(小声で)ダメだ聞いても覚えらんない」

沙奈/梨紗/実果「(笑う)」

かすみ「じゃあ私たち、」

沙奈「あうんがんばってー」

実果とかすみ、部室の方へ。

歩く沙奈と梨紗。

沙奈「なんかさっきメールでD組の藤田がマックいるから来いつって」

梨紗「マジで。行くの?」

沙奈「そっこう。藤田とか百パー眼中ねえし」

梨紗「閉店しても待ってんじゃん?言えば男いるって」

沙奈「んー、なんか知ってて誘ってるっぽい」

梨紗「つか、チャレンジャー過ぎ。宏樹だよ」

沙奈「あ、宏樹に言わないでね藤田のこと」

梨紗「言わない」

沙奈「言わないの?」

梨紗「何。じゃ言う」

沙奈「えー」

梨紗「どっちだよ」

二人「(笑う)」

サックスを抱えた沢島亜矢が二人を追い越して行く。

前方で、同じ吹奏楽部の1年生が、沢島に挨拶をしている様子。

梨紗「(沙奈が亜矢を見ているので)?」

沙奈「いやあの子。宏樹の後ろの席の。たまに目があうんだよ授業中とか。なんか恨まれることしたかな?」

梨紗「(笑って)沙奈が宏樹の方ばっか見るから」

沙奈「そっか」

シーン16 廊下/更衣室の前

ドアを開けて入ろうとする実果。ふいにかすみを振り返る。

実果「ごめんね、嘘だからさっきの」

かすみ「え?」

実果「内申書とか言って。本気で好きだからバド」

かすみ「うん」,

実果「あそこであの人たちにマジな話してもね。(更衣室に入る)」

かすみ「……」

シーン17 放課後/体育館・外

体育館の前に到着した梨紗と沙奈。

梨紗「じゃね」

沙奈「はぁい」

沙奈が去り、梨紗はべンチに座る。

シーン18 放課後/更衣室・中

着替えているかすみと実果。

かすみの腕にミサンガ。

実果「それ自分で作ったの?」

かすみ「?」

実果「それ(ミサンガ)。初めて見た」

かすみ「あ、うん、願掛け。次の試合勝てますように」

実果「……(じっとかすみの腕をみつめて)ちょっと触っていい?」

かすみ「え? うん….」

実果、ミサンガではなく、かすみの二の腕を触っている。

実果「やっぱり。筋肉の感じが似てる、お姉ちゃんと」

かすみ「……え?」

実果「だからかすみもあんなに強いスマッシュが打てるんだな……。あるんだね素質って。ほら(かすみの手を自分の腕にあて)違うでしよ?」

かすみ「ごめんわかんない….」

実果「だね。ごめん急に。行こ」

かすみ「あ、うん」

シーン19 放課後/体育館・外(※本編ではカット)

サッカー部・堤と話す梨紗。

堤「風邪ひくなよ」

梨紗「ありがとおつかれー」

堤「(去りながら後輩に)な? 超よくね? 間違いなく2年でブッチギリ、」

その背後で携帯をいじる梨紗の姿

シーン20 放課後/体育館へ向かう道中

ラケットを抱えて歩くかすみと実果。

かすみ「2年の時だっけ、お姉さん」

実果「んん。県でベスト4見に行ったよ、その時の試合」

かすみ「すごかったんだね」

実果「……生きてればもっとね。なかなかあの人みたいにはなれないよ」

かすみ「大丈夫だよ実果だって、」

実果「(答えようとした時に梨紗と目が合い、それまでとはうってかわって楽しげに)梨紗ぁ」

梨紗「(手を振りかえす)」

体育館へ入って行くかすみと実果。

携帯に戻る梨紗。しばらくいじっている。

そこへ沙奈が走ってくる。

沙奈「……(息が切れている)」

梨紗「(驚いて)どした」

沙奈「あのさ……」

梨紗「なに」

沙奈「え、知らない? 知らない……んだよね」

梨紗「だから何なの」

沙奈「や、今宏樹が、バスケなんだけど、で友弘がね、あの、桐島くん……」

梨紗「?」

体育館の中から飛び出してくるかすみと実果。

実果「梨紗!」 沙奈と話していた梨紗、実果のほうを振り向く。