プロテスタンティズムとカトリシズムの違い(Durkheim 1897=1985: 182)


[1] Durkheim,Émile, 1897, Le Suicide : Étude de Sociologie, Paris: Félix Alcan.(宮島喬訳,1985,『自殺論』中央公論社.)

 けっきょく、プロテスタンティズムが、カトリシズムよりも個人の思惟に大きな地位を与えているのは、プロテスタンティズムにはカトリシズムほど共通の信仰や儀式が多くそなわっていないからである。ところで、もともと宗教社会というものは、集合的な信条がなければ存立できない。そして、この信条が広く共有されていればいるほど、その社会はより一体化され、強められたものになる。すなわち、宗教社会は、サービスの交換や相互性によって人間の結合をはかっているものではないからである。それらは、人びとの差異を容認し、それを前提とさえする世俗的な絆であって、人びとをむすびつけるうえでは無力なのだ。宗教社会では、人びとは同一の教義体系にむすびつくことによってはじめて社会化されるのであり、この教義体系がより広汎でしかも強固であればあるほど、人びとはよりよく社会化される。宗教的性格をおびた、それだけにまた自由検討に反するような行動様式や思考様式が数多く存在すればするほど、いっそう神の観念は生活のすみずみまで行きわたり、それによって、個々人の意志もただ一つの同じ目的に集中するようになる。反対に、宗教団体が個人の判断にすべてをゆだねていればいるほど、それだけ個人の生活からそのかげがうすれ、集団としての凝集性も活気も失われてくる。そこで、次のような結論に達する。すなわち、プロテスタンティズムのほうに自殺の多い理由は、プロテスタントの教会がカトリック教会ほど強力に統合されていないためである、と。