韓国コスメ販売店Y
コスメ販売店Yは第二次韓流ブームの只中であった2011年末、大久保通りと職安通りに店舗をオープンした。その後も大久保地域に限らず各地で支店が展開されたが、インタビューを実施した2017年時点には職安通り店を含む3店舖が閉店し、大久保通りの路面店(1階の半分と2階)および前述した韓流・K-POPグッズ販売店X内の販売スペースが営業中であった。他地域への展開としては、大阪、福岡、札幌地域にも卸営業を行っており、大阪等への進出を考えているとのことであった。
主要顧客層としては、基本的に顧客の97〜98%が日本人女性であることに変わりはないが、年齢層についてはオープン当初から2017年現在にかけて変化が見受けられるという。「当時は、東方神起とか、そういったファンの方がいらっしゃるじゃないですか。少し年齢層が上の方々と、娘と母と一緒にいらっしゃる方も多かったんですが、今は10代・20代。年齢層がだいぶ変わった気がします。30代・40代から10代・20代のほうに」(D氏、2017, o. 12, 筆者和訳)。また、顧客は近隣に在住する者に限定されず、3連休等には大阪など地方からの来訪者も多いという。さらに、主要顧客層の購買傾向としては、販売店側からの提案にとどまることなく、韓国での流行や新商品等の情報を顧客のほうがインターネット等を通じて先に仕入れており、販売店に問い合わせるケースが多いという状況が聞かれた。
「最近は、前よりインターネットとかそういうのが発達して、お客さんたちがすぐにその場で確認するんです。これありますか、って聞かれる方もいらっしゃいますし。以前は、見方によっては、私たちのほうからおすすめして販売していたわけですが、〔今は〕全部情報を知ってからいらっしゃるので。なので私たちは、品目とかを、新製品なんかも若い子たちに合わせて、すぐに、これから来そうなブランドとか、こういったものをよく取り扱うようにしています。」
「韓国で流行っているとなったら、こっちでも早くキャッチされて、これありますか、〔と聞かれるので〕競うように早く取り扱おうという努力をしています。」
「〔韓国コスメに〕関心のある方が相当多くなりました。〔中略〕年齢層が上の方々の場合は、ご説明して、これが良いですよとお話をしていたとすると、今は説明しなくても、お客さんたちがいらっしゃって「あ、これだね」って言って。」(D氏、2017/10/12、筆者和訳)
以上のような事情から、Yでは特定の韓流・K-POPや韓国で流行している化粧品などを紹介する情報サイトとも協力関係を結び、広報手段のひとつとしている。このような情報サイトから情報を得て、韓国コスメ販売店Yへ来訪して商品を購入するというルートができており、売上にも大きな影響があるという。
具体的な商品としては、韓国コスメを中心に、ハンディファンなど韓国で流行した雑貨等も扱っている。雑貨等も顧客側が先に情報を入手することが多いため、とにかく早く仕入れることが重要になっているという。店頭に立つ販売スタッフが顧客から寄せられる質問からニーズを汲み取り、韓国側に商品を手配することも多々あるという話が聞かれた。韓国コスメの商品そのものに関する変化としては、オープン当初は小規模会社が自社で製作して納品する商品を扱うことが多かったが、韓国のコスメブランドが成長するにつれて、近年ではそういったブランドショップの商品を扱うことが多くなったという。ブランドショップの商品の場合、バッケージが競い合うように可愛くなったことも特徴として挙げられ、特定の韓国コスメブランドが有名になる前から注目されることもあったとされる。
「以前は、まあ、韓国の化粧品は安くて質が良いという、最初はそういう認識で来られていたんですが、今は正直、お客さんたちのほうが私たちより情報をよく知っていらっしゃることも。それよりは流行りの商品を。だから今は若い層にだいぶ変わったような気がします。」(D氏、2017/10/12、筆者和訳)
以上のような状況からは、顧客である日本人観光客と、提供者である韓国系ビジネス経営側の双方におけるトランスナショナルな実践が韓国コスメ阪売という新業種を可能にしていることがわかる。日本人観光客によるトランスナショナルな実践には、身体的な次元でのトランスナショナルな移動と、インターネット等を介した情報収集の両方が含まれる。そして、商品を販売する韓国系ビジネス経営側のトランスナショナルな実践がそうしたニーズを満たしている。たとえば、Yで取り扱う雑貨やアクセサリーについては、1か月に2回ほど職員が韓国へ行き、直接買い付けてくる形を取っている。セルカ棒やハンディファンなど、「今ホットな、キラッと光る商品は、すべて直接韓国に行って、私たちが購入してくるという状況」(D氏、2017/10/12、筆者和訳)だという。
「私たちも、早く早く持って来ないと。たとえば、ハンディファンとか、そういったものは早く持ってこないといけなくて。お客さんたちがいらっしゃって、何かひとつでも持って帰ろうという、そういうのがありますので。そういった点で、本当に安いものから高いものまですべて購入している状況です。」(D氏、2017/10/12、筆者和訳)
続いて、Yを経営する企業の構成については、職員が10〜12人程度、アルバイト社員が売場スタッフと事務室スタッフを合わせて20人程度となっている。国籍構成としては、職員は1人を除いて全員韓国出身者であり、売場スタッフは約7割が韓国出身、他は日本人スタッフで構成されている。職員の来日経路は様々で、日本の美大を卒業して就職した者やワーキングホリデーとして来日した際にアルバイトを始めて職員になった者などもいるという。ただし、職員探しは業務上最も大変な点として挙げられる。1年や3年ほど勤めて韓国へ帰国してしまう職員が多く、継続的な人材の確保が困難な状況にある。
売場の構成としては、2017年現在はテナント店を4〜6つほど入れる形を取っているという。オープン当初は数種類のブランドの他、各自が商品を仕入れる形を取っていたが、現在では韓国コスメのブランドショップ商品が増えた形である,これは商品の多様性を追求するためであり、顧客に特定の商品を強制的にすすめるのではなく、「楽しく過ごしてもらうこと」を目的としているという話が聞かれた。近年ではこれらの韓国コスメのブランドショップが新大久保エリアや原宿等に直接進出するようにもなってきたが、なな商品を扱っているということが強みになり、大きな影響はないとのことであった。
「〔ブランドショップの日本進出については〕私たちも緊張はするんですけど、ここだけの、ここの顧客層も厚いじゃないですか、ここ新大久保自体が。だからそこについてはまあ、原宿にできてもどこにできても、私たちにそれほど影響はないですね。」(D氏、2017/10/12、筆者和訳)
最後に、以上のようなYの立ち上げの経緯に触れておきたい。Yの立ち上げにかかわったG氏によると、韓国コスメ阪売という分野に切り込むようになった契機はおみやげ文化への注目からだったという。その背景には、日本からの訪韓観光客の増加という文脈が存在する。次のようなG氏の発言からは、訪韓経験のある層が増えたことに加え、そうした層に焦点を当てて先駆的に新規事業を開拓することのできた韓国系ビジネス経営者の存在が、新大久保エリアにおける新業種の増加を可能にしたと考えられる。
「日本の人たちが韓国に行ってきてからセマウル食堂を知るのであって、ここでセマウル食堂のことを知るわけじゃないんだよね。韓国に行って何を感じるかっていうと、ショッピングとかそういう部分で、全部明洞と関連をさせるんだよ。それで、自分たちがほしいと思って買って、前は〔韓国ブランドのコスメとか〕そういうのを買って、おみやげでもらってうてやってると、口コミで広がっていく。」
「おみやげっていうのは、〔中略〕昔の高麗人参から始まる。高麗人参、次はキムチ、その次が海苔。それで私は海苔工場をやっている。〔中略〕化粧品工場もそういう理由で。それを、モットーにしよう。日本の人たちはこういうものが好きなんだな、確実に。パイを見て、このパイはここで、こうして、って攻略しただけ。だから、それが、ただうまくいって、急に入ってきて、つてそういうことじゃなくて、みんないっぱい考えたんだよね。」(D氏、2017/10/12、筆者和訳)
申惠媛,2024,『エスニック空間の社会学——新大久保の成立・展開に見る地域社会の再編』新曜社.