社会関係資本(Social capital)という概念は、ブルデュー(Bourdieu, 1983)によって初めて論じられ、コールマン(Coleman, 1988 & 1990)、バート(Burt, 1992)、リン(Lin, 2001)などによって精緻化された。一般に、社会関係資本は、「社会資源(社会関係に埋め込まれた資源)とネットワークにおける行為者の位置(ネットワーク特性)(Lin, 2001)」と定義される。要するに、社会関係資本は、いわゆる「コネクション」であり、愛情や世話、地位や敬意、情報、金銭などの財政的援助、物品などの物質的援助、サービスなど有形、無形の様々な(ソーシャルサポートとも呼ばれる)資源への接近を促進する働きを持つ。ネットワークは、多くの場合、行為者の目的達成のための手段として活用されるので、ネットワーク自体が社会関係資本と呼ばれるようになった。社会関係資本は、親から相続する場合もあれば、個人の職業経歴を通じて獲得する場合もある。
社会関係資本には2つのタイプがあると議論される。リン(2001)は、社会関係資本を閉鎖型ネットワークと開放型ネットワークという2つのタイプに分類した。閉鎖型ネットワークが社会関係資本として機能することを指摘したのは、ブルデュー(Bourdieu, 1983)とコールマン(Coleman, 1988)である。閉鎖型ネットワークでは、集団構成員間の相互関係の密接な結びつき、明確な境界、あるいは、強い連帯性が存在し、集団内部の資源が相互的に共有されたり、再生産されると論じられる。例えば、ホスト社会における教会構成員間の相互情緒的支援、あるいは、韓国人の交替制信用組合(RCA)などが社会関係資本として機能する閉鎖型ネットワークと考えられる。
反対に、開放型ネットワークでは、行為者間の緩やかな連結を通じて、特定の集団内部だけでは入手できない新しい情報、機会、資源に接近し、獲得することが可能である。例えば、グラノヴェター(Granovetter, 1973)は、行為者間の強い紐帯(頻繁に会う関係)よりも弱い紐帯(稀に会う関係)を通じて、新しい情報に接近できるという「弱い紐帯の仮説」を検証し、就業情報を収集する際に弱い紐帯が役立つことを発見した。同様に、バート(Burt, 1992)は、構造的空隙(Structural Holes)という概念を用いて、弱い紐帯によって、関係が不在である(構造的空隙)異なるクリーク間を「橋渡し」することが可能であると提唱した。つまり、行為者間の関係が分断されているところで、ブローカーが資源の流れを仲介し、「橋渡し」の役割をすることにより、仲介料という利益を得るのである。エスニックの起業過程の研究では、エスニック・ネットワーク(特定のエスニシティを共有する人々の間の社会関係)の重要性が論じられてきた。たとえば、中国のエスニック企業家の場合には、社会関係資本は「グアンシ(Guanxi)」と呼ばれ、社会関係あるいは社会的つながりを意味する(Light and Gold, 2000: 95)。これらの社会関係は、エスニック起業において様々な資源を動員する際に役立つのである。このように、エスニック集団が保有する多様な資本は彼らの社会関係に埋め込まれており、特定の社会関係の存在は相互信頼、相手への忠誠心、相互義務の期待、運命共同体意識、相互利益の尊重なども意味する。エスニック企業家は、エスニック・ネットワークを通じて、自分の経済的目的を達成するために、特定のエスニック集団内に存在する信頼関係や協力関係を活用し、ホスト社会において自分たちが置かれている不利な状況を克服しようとするのである。
起業時には、エスニック企業家にとって、資金、労働力、市場、契約、法律、会計、製品の需要と供給、価格、産業の傾向などに関する情報が必要である(Boissevain and el al., 1990: 133-134)。これらのエスニック起業に関する多くの情報は企業家が持つネットワークを通じて得られる(Aldrich and Zimmer, 1986: 134)。上記の2つのタイプの社会関係資本で記述したように、企業家は、新しい情報は広範に開放された弱い紐帯を通じて入手し、個人的なローンや労働力の確保には親密性にもとづく強い紐帯を活用すると考えられる。たとえば、ロスアンジェルスの韓国人は、同窓会や教会における集会という社交的な状況でビジネスや経営方法に関する情報交換をした(Light and Bonacich, 1988: 192-203)。さらに、エスニック・ネットワーク内部では、情報の直接交換だけでなく、相互援助のために親族や知人の紹介も行われ、その行為自体がネットワークの維持と強化に役立つ。また、エスニック:ネットワークの拡大は、結婚式や葬式といった儀礼的な行事において新しい友人が加えられることによって可能となった(Boissevain and el al., 1990: 135)
もちろん、情報の伝播がエスニック・ネットワークだけによって行われているわけではなく、フォーマルな情報経路として新聞や雑誌がある。たとえば、ロスアンジェルスで韓国人企業家が発行している新聞や雑誌は、詳しいエスニック起業情報を提供する。エスニック企業家が発行している新聞や雑誌の記事には製靴、不動産、花、洗濯、青果、宝石、建築、車修理、ギフト・酒、印刷、レストランなどの各業種の企業情報が掲載されていた(Light and Bonacich, 1988: 187-188)。しかしながら、「エスニック企業家にとって不可欠な情報の多くは、エスニックチャンネル(経路)を通じて収集される(Boissevain and el al., 1990: 133)。」それは、エスニック・ネットワークがもたらす情報は正確で信憑性が高いからである。
エスニック・ネットワークは、情報の伝播だけでなく、上記の経済資本で説明したように、他の資源動員にも役立つ。たとえば、親族ネットワークにもとづく「呼び寄せ(Chain Migration)」によって、移民先の職業や住宅などの情報が入手できるだけでなく、親族の支援によって移民先の職業生活へのスムーズな適応が可能となる(Haraven, 1990)。このように、労働力という資源の動員には、親族や同種エスニックから構成されるエスニック・ネットワークが重要な社会関係資本である。エスニック企業はほとんどが小規模であり、従業員が1人、あるいは夫婦が共働きで経営するところが多い。エスニック企業家は、家族、親族、同種エスニック労働者などの低賃金で忠誠心の強い労働力に依存し、彼らの企業への貢献が企業の生存と成功にとって不可欠である(Boissevain and el al., 1990: 141)。たとえば、米国の韓国人企業家は兄弟、姉妹、親戚などを従業員として雇用し、彼らの拡大家族を家族労働力として有効に活用した(Kim, 1990)。このように、起業の成功は長時間低賃金労働という「家族の忍耐」の上に成り立っている。しかし、この家族の「犠牲」は、企業家が家族メンバーに対して様々な援助を提供するという「社会的義務」によって互酬的に補償されるのである(Boissevain and el al., 1990: 143-144)。要するに、親族、友人、そして同種エスニックから構成されるエスニック・ネットワークは、情報提供者、サプライヤー(資材の納入業者)、あるいは、専門的な助言(法律、会計など)を提供する社会関係資本として機能する。