資力調査は、フロー(収入)とストック(資産)、および就労能力や家族関係などを調査すること(生活手段〔means〕のすべてを調査すること〕である。その目的は「貧困」を確認するためであり、そのための判断基準を定めることが必要である。……貧困の事実を確認するだけなら、本人の収入さえわかればよいという考え方もあるが、そうではなく資産や家族まで調べあげなければわからないというのが資力調査の考え方である。
そこで、資力調査の議論では、どれくらいの資産を認めるか。どこまでの資源(資産、能力、家族など)までを含めるかが論点となる。生活保護では、現金や預貯金などの手持ち金については、保護基準額の1カ月分までしか保有が認められていない。こうした預貯金の額をはじめ、不動産、自動車、家電製品、携帯電話の所有の是非がつねに争点となってきた。時代や社会によって生活必需品が移り変わることに加え、人間関係や社会参加にともなう出費や家財などをどう評価するかは非常に難しい問題である。(中略)
就労能力についても資力調査の対象となる。障害や病気の有無は医師の診断にゆだねられることが多いが、たとえば不眠、神経症、ストレスといった医学的には診断の難しい「状態」によって働けない場合、その扱いが論点となる。(中略) このように、資力調査をおこなうことは公的扶助へのアクセシビリティ(利用しやすさ)を低め、スティグマ(恥辱感)を負わせると考えられてきた。さらに資力調査には専門知識や価値判断が必要なためパターナリズムにおちいりやすく、そのうえプライバシーに踏み込むため調査を受ける当事者は気分のいいものではない。誰だって、預貯金の残高や所持品をすべて調べあげられ、遠い親戚にまで連絡をとられ、身体や精神状態についての診断書がないと生活保護を利用できないと聞いたら、気が引けるのではないだろうか。これが資力調査にともなうスティグマというものである。
金子充,2017,『入門貧困論——ささえあう/たすけあう社会をつくるために』明石書店.pp.205-6