概念と作業定義の関係(高根 1979)

 実際の研究においては概念を具体化した「指標」を定めて観察を行う。図3-3はその関係を示している。「概念」が観察すべきものについての、一般的定義であるならその「指標」は具体的な観察という「作業 operation」を行うための具体的な定義である。そのため概念を代表する指標は「作業定義 operational definition」と呼ばれる。「作業定義」は概念と、経験的世界との仲立ちをするいわば経験的定義である。そしてこの定義に従って観察され、記述化された経験的世界の一部は、データ(data)、あるいは資料と呼ばれて研究の際の経験的証拠となるのである。

 もし議論が、抽象度の高い一般的概念の平面だけで行われるとするならば、その議論は経験科学ではなくなってしまう。逆に社会科学の議論が、常に経験的世界の平面にとどまるならば、それは地面をはいまわる悪しき経験主義者のレポートになってしまう。社会科学が経験的事実に基づいた科学であるためには、われわれは経験と抽象との間を往復しなければならないのである。


高根正昭,1979,『創造の方法学』講談社.p.66