フィールドを去ることは、ときに、フィールドに参入するより難しい。その理由は簡単で、フィールドに参入する前は、フィールドの人々との間に関係が築かれていなかったが、フィールドで活動するうちに、そのフィールドの人々と関係ができるからである。フィールドのなかで特定の役割を担い、抜けることができなくなることもある。とは言え、フィールドに參入し、一定期間が過ぎれば、フィールドを去るタイミングや去り方について、考えはじめるだろう。
フィールドを去る理由は、フィールドワーカーやフィールドによって、さまざまである。まず、フィールド・エントリーのときに、はじめから期間を決めて参入する場合がある。たとえば、学生などが夏休みを利用してフィールドワークをしようとする場合である。このパターンでは、基本的に、参入時にフィールドを去るタイミングや去り方については約束されているので、それに従ってフィールドを去ることになる。
他の理由として、フィールドワーカーの所属が変わったり、体調を崩すなど身体的な制約が加わるなど、フィールドワーカーの外的な理由によることもある。この場合は、その事情をフィールドの人々に説明し、フィールドを去ることになる。また。災害後の介入していたフィールドがある程度復興した場合や、子育てサークルが地域の少子化や施策の変更などから閉鎖した場合など、フィールドそのものがなくなってしまうこともある。そして、これら以外の理由で、フィールドの去り方が難しいのが、とくにはっきりとした理由が見いだせないときである。当初の研究の目的はある程度達成し、十分なデータも確保でき、かつ、フィールドに通う時間がだんだんとれなくなってくることがある。このようなとき、徐々にフィールドに通う頻度が減り、いつの間にか。フィールドに顔を出さなくなり、そして、フィールドの人に忘れられるという経過をたどる場合もあるだろう。しかし、フィールドを去った後分析した結果のフィードバックの問題もあるので、時間がとれずフィールドに通うことが難しくなってきたら、その旨を説明して、フィールドを去るという決断をした方が、フィールドワーカーもフィールドの人々も気持ちがよいと考えることもできる。
岡本依子,2005,「フィールドに関わる」伊藤哲司・能智正博・田中共子編『動きながら識る、関わりながら考える——心理学における質的研究の実践』ナカニシヤ出版,49-62.p.61