オーバーラポールという問題(能智 2011)

 ラポールの構築と言っても、単に仲よくなることではないという点にも注意が必要です。それは、インタビューという場の目的に照らして適度な信頼感を作ることを意味しています(桜井 2002)。全くの他人同士の間で率直なやりとりが成立しにくいのは確かですが、同時に、あまりに近しい関係もまたインタビュー過程とその後の分析を阻害することが知られています。これは、“オーバーラポール”と呼ばれている問題です。

 近すぎる関係は、インタビュアーの側からもインタビュイーの側からもインタビュー実践に困難をもたらします。インタビュアーの側から言えば、自分の家族に対してカウンセリングをしづらいのと似て、語られたことから距離を取って冷静に聴き取ったり客観的に分析したりする作業に支障が生じるでしょう。インタビュイーの側からすれば、近すぎる関係のもとでは言葉を介して情報を伝える動機は弱くならざるを得ません。言葉が生み出されるのは、相手が自分とは切り離された他者であると認識しつつ、同時に、言葉を通じて相手と何かを共有したいという感情が兆す中間的な状況においてです(小浜 2006)。目指されるべきラポールとは、そうした状況が生じやすくなるような関係性と関連しています。


能智正博,2011,『質的研究法』東京大学出版会.p.200