インスタグラムが写し出すもの(増田 2020)

 メディア研究者のL.マノヴィッチは、インスタグラムの公開から5年の間に投稿された1500万枚もの写真データを解析した研究を発表した(マノヴィッチ 2018)。撮影者の性別や都市ごとの撮影地と、構図やデザインとの関係を比較した結果、インスタグラム上の数々の写真が三つのタイプに分類されている。以下、スマートフォンやSNS以降に特徴的な撮影手法という観点から、それぞれを順に確認してみよう

 第一のものは「カジュアル写真」と呼ばれ、人物や食べ物などの日常生活の一断片を何気なく切り取ったものを指す。コンパクトな撮影機で咄嗟に撮影したためか、被写体が画面から見切れるなど、構図の設定に特段の注意は払われていない。事後的な加工がともなうことはあるものの、コントラストやトーン・焦点が念入りに調整されることは稀であり、要するに「上手い」とは言えない写真が多い。それでもこれらのカジュアル写真は、身の回りの人物や事物を進んで撮影しようとする私たちの欲望を前面化した結果であるといえよう。

 これと比して第二の「プロフェッショナル写真」とは、構図や視点、焦点や照明などが念入りに設定された写真のことを指す。その基準となるのは従来のアート作品や広告写真など、インスタグラムの登場以前から確立されていたものが多い。たとえば、構図は左右対称かグリッド状に分割し、明るく照らした被写体に焦点を合わせる、また、光の当たり具合を調整してハイライトを強調するなど、これらの手法によって、見る者の視線を一定方向に誘導することもできる。この場合には人物と並んで、風景や建物などの屋外の自然が被写体となることが多い。

 そして最後に「デザイン写真」とは、定型化されたスタイルをもつ写真のことである。具体的には、フレームに対して被写体を注意深く配置し、クロースアップでわざと断片化するか非対称に並べるといった構図が採用される。平台の上に食べ物や事物を並べて真上から撮影するような、「フラットレイ」と呼ばれる手法がその代表的な事例である。色彩は明度の高い白色系に統一され、複雑な曲線よりも直線的な配置によって奥行きよりも平面的な広がりが強調される。その被写体となるのは、わざわざインスタグラムで公開するために用意された状況であり、つまりは「デザインされた環境」と呼ぶことができる。

 以上三つの線引きは実際には必ずしも明確ではなく、それぞれに重なりあう事例も少なくない。マノヴイッチはそのことを認めつつも、ここまでの分類からインスタグラムに固有の新しい美意識が登場していると指摘する。それ以上に重要なのは「上手い」かどうかという価値判断ではなく、ここでもスマートフォンという撮影装置が私たちの撮影行為を介して、写真の形式や内容にまで強く影響を及ぼしているという事実なのである。


増田展大,2020,「スマートフォンは写真をどう変えたのか?――写真史、ヴァナキュラー、モビリティーズ」石田佐恵子・岡井崇之編『基礎ゼミ メディアスタディーズ』世界思想社,31-50.pp.35-6

マノヴィッチの文献は『インスタグラムと現代視覚文化論』