メディア化された都市空間と情報空間の機能的等価性(木村 2023 : 97-8)

 Instagramで発信される情報は,ハッシュタグなどを通して手繰り寄せられ,拡散されるのだが,情報を与える側と与えられる側の敷居は低く,偶発的に入れ替わる。インフルエンサーや有名人の影響力は大きいものの,かつてのマスメディアの独占状態と比べるとフラット化しており,送り手の姿も可視化されている(ただし,受信/発信の規模は,マスメディアと比べて格段に小さい)。本章で確認してきたように,ラグジュアリーで「映える空間」とは,Instagramという台本が提示するポピュラーな都市経験である。

 映える空間を舞台とする都市経験は,加工や編集が施されて公開・共有される。メディア化された都市のリアリティのパフォーマンスは,Instagramという舞台において創造されるのである。それは,魅力ある都市空間を手中に収めるやり方の一つであるのだろう。映える空間を写した写真や動画がInstagramにアップロードされて共有される時,都市空間と情報空間は機能的に等価となり,舞台は二重化する。

 ただし,舞台としての都市空間とInstagramには決定的な違いがあることを最後に指摘しておきたい。都市空間という舞台では,その場に偶然居合わせた不特定多数の者がオーディエンスとなるが,Instagramはそうではない。一般女性の多くは,インフルエンサーや有名人とは異なり,ソーシャルメディアのアカウントには鍵をかけて(非公開にして)利用している。前述の全国大学生調査のデータによると,ソーシャルメディアの中でInstagramを最もよく使用する者のうち,実に90.7%がソーシャルメディアのアカウントに鍵をかけた経験をもつ(χ2検定:p=0.031,Cramer’s V=0.072)。質問項目の構造上,必ずしもInstagramのアカウントに鍵をかけているかを問うものではないのだが,別途,筆者が行っているInstagram利用に関するインタビュー調査や前述の授業内アンケートでも鍵をかけて利用するというのが多数派を占めていた。その理由としては,「自分の知らないところで誰かに投稿を見られているかもしれないという状態が嫌」、「友人と共有するだけで十分であるから。知らない人に個人情報を見られたくない」、「(インフルエンサーとして活動することは)私はないです。インターネットに顔をさらすのは,……世界中に見せるというのはちょっと怖い。……人気になればなるほどアンチが出てくると思う’」という声が上がる。また,鍵をかけたうえで,さらにストーリー(ズ)の閲覧に制限をかけ,フォロワーの一部しか見られない設定にしている女子大学生もいた。自分の投稿を無防備にさらすことに対する強い不安があるようだ。

 Instagramは,全世界に向けて見せることのできる開かれたメディアである一方で,鍵付きアカウントとして使われる場合はクローズドメディアとなる。Instagramにも,投稿の限定公開など閉じるための機能などがたびたび加えられてきた。鍵付きアカウントのオーディエンスとは,ごく親しい人やなんらかのつながりのある知人を中心とした数百人程度のフォロワーであり,目に見えない匿名の存在はあらかじめ排除されているのである。誰に,どういう情報を,どのように公開するのか。Instagramでは,特定多数のオーディエンスに向けたパフォーマンスである「選択的コミュニケーション」によって閉じられた舞台が作られている。女性たちにとって,クローズドメディアとしてのIns-tagramとは,たとえば見知らぬ者から評価や批評がなされたり,価値を付与されたりすることがなく,あるいは都市空間のように不特定多数による無遠慮なまなざしが向けられることなく,安心して「見せる=魅せる」ことのできる舞台となっている。こうした舞台のあり方は,彼女たちが望み,作り出したものである。だからこそ,他方の開かれた舞台の問題についても,今後,考えていく必要があるだろう。


木村絵里子,2023,「メディア化された都市の経験と女性文化——雑誌メディアからInstagramへ」大貫恵佳・木村絵里子・田中大介・塚田修一・中西泰子『ガールズ・アーバン・スタディーズ——「女子」たちの遊ぶ・つながる・生き抜く』法律文化社,85-100.pp.97-8