ブルーマーのコミュニケーション論とファッション(成美 2007)

 ブルーマーはパリのファッション産業を調査し,作り手に注目しながら流行生成のプロセスを分析した(Blumer 1969)。ブルーマーによると,あるメゾンはいわゆるコレクションなどの展示会で100種類以上の服飾デザインを提案する。その展示会を見たバイヤーやジャーナリストは提案されたものを吟味して,雑誌に紹介したり店頭で販売するために6~8種類を選択することになる。さらにこれらのドレスは店頭に並べられたり雑誌に取り上げられ,感度の高い消費者のグループ(ファッション・リーダー)の判断にさらされ,ふるいにかけられる。こうして残った洋服のなかから一般消費者にも受け入れられ,流行として普及していくものが出てくる。ブルーマーは,流行普及のメカニズムを階級ではなく,多くの人びとによる「集団選別(collective selection)※集合的選択」というコミュニケーションのプロセスに求めた。彼は,人びとのコミュニケーション能力に文化生成の原動力を見いだそうとしたのである。

 ジンメルらがファッションを階級間の非合理的な見栄の張り合いとしか見なかったのに対して,ブルーマーはきわめて高度な相互コミュニケーションのメカニズムを発見している。ブルーマーによると,ファッションは社会的に重要な役割を果たす。第1に,集合的選別を通して形成されたファッションは,変化が早くともすれば無秩序になる現代社会において,一つの秩序を導入する実践となる。第2に,ファッションは素早く変化することで,過去からの桎梏から自由になり,新たな方向へと進むことに役立つ。そして第3に,ファッションは来るべき未来に対して方向性を与え,変転する世界に適合するための手段となるのである。ブルーマーにとって,不安定でダイナミックに変化する社会において,ファッションは,変動する世界にしなやかに適応するための戦略なのであった。


成美弘至,2007,「ファッション―流行の生産と消費」佐藤健二・吉見俊哉編『文化の社会学』有斐閣,83-110.pp.103-4