社会的絆(social bond)とは、個人が社会とつながるさまざまな「つながりの糸」の束。社会的絆理論によれば、個人と社会とのつながりの糸の束が細かったり切れていれば、青少年は非行に走る可能性が高く、反対に太ければ、それだけ非行に走る可能性がある。
・社会的な絆の4要素
- 愛着(attachment)……家族や友人あるいは学校という集団への情緒的なつながりの糸
- 投資(commitment)……価値や行為目標への功利的なつながりの糸。それまでやってきたことや投資してきたことを失うことへの恐れや、思い入れ、こだわり。
- 巻き込み(involvement)……日常生活のさまざまな活動への「巻き込み」。青少年は自分の時間やエネルギーをこれらの活動に投入し、日常生活のさまざまな活動に「参加」することによって、社会や集団とのつながりの糸をもつことになる。
- 規範観念(belief)……個人が所属している社会や集団にとって重要な構造的要素であり、個人は所属している社会や集団の規範的な枠組みを受け入れるという考え方。規範観念をもつことによって社会や集団とつながることになる。
・なぜ非行少年たちは規範観念を破るのか?
- 「われわれは、法を破ることを後押しするような意味づけは他者、特にたいていの場合は両親、との密接な関係の欠如や弱化に基づいている、という見方を取るということである。両親と密接に結び付いている個人は、彼が敬服する両親の承認や評価を受けることによって、同調することにたいする報酬を得ている。もしそうした愛着という情緒的なつながりが欠けていれば、そこには同調にたいする報酬はなく、ただ逸脱にたいする弱い罰があるだけである」(Hirschi 1969=2010: 218)。
- 「ボンド理論には疑問も呈されている。というのは、調査で明らかになったのは四要素と非行との結びつきであって因果関係ではなかったからである。つまり絆が弱まったから非行が生じたのか、それともそれ以前に非行経験があったせいで絆が弱まったのか、その因果関係が不明であった。むしろ長期的な調査からは因果関係は否定さえされた。にもかかわらずこの理論がいまだ支持されているのは、社会的な絆への着目が支持されたからであるし、さらに非行を個人的な問題とする考え方の強さによるといえよう」(佐藤 2017: 282)。
- 森田洋司,[1995]2010,「翻訳にあたって」T・ハーシ『非行の原因——家庭・学校・社会のつながりを求めて』文化書房博文社.
- Hirschi, Travis, 1969, Causes of delinquency, Berkeley: University of California Press. (森田洋司・清水新二監訳,[1995]2010,『非行の原因——家庭・学校・社会へのつながりを求めて』文化書房博文社.)
- 佐藤哲彦,2017,「犯罪と逸脱」盛山和夫・金明秀・佐藤哲彦・難波功士編『社会学入門』ミネルヴァ書房.