日本的雇用慣行[日本的雇用システム]

日本的雇用慣行[日本的雇用システム](小川 2015a[1]

  • 長期雇用……企業が従業員の雇用を維持し、従業員も同一企業にとどまり続けるという、相互の期待によって支えられている。ただし日本の長期雇用は、(1)大企業に勤務する、(2)男性の、(3)正社員を中心とする慣行。中小企業に勤める人々や多くの女性、非正規雇用者はこの慣行から除外されている。
  • 年功制……いわゆる年功序列は存在しない。勤続年数によって昇進競争のパターンが変化する。新規学卒採用から20歳代後半までの一律年功型、20歳代後半から40歳前後までの昇進スピード競争型、40歳以降のトーナメント競争型(すでに昇進した者がさらに上位に昇進する候補者となる)の3つの区分。
  • 企業別労働組合……企業を単位として独立しており,組合員資格を当該企業の特定の従業員にしか与えない労働組合(長松 2017)。非正規雇用者を組合員としている企業別組合は少ない(小川 2015b)。
  • 新規学卒一括採用……長期雇用を重視している日本の大企業は、新規学卒者の採用や育成を重視してきた。利点は、第1に若年層の失業率を低く抑える効果があること、第2は、若年層に企業内教育訓練の機会が広く提供されること、第3は、長期的なキャリアの見通しを若年層に保障できることにある。
  • 企業内教育訓練……新卒採用者に対して、将来の中核人材として期待していることを意味する。企業内教育訓練の提供は、従業員が長期にわたり勤続し、職務能力を高めていくことを前提としている
  • 出向・転籍……企業グループぐるみでの労働力需給調整メカニズムとして機能
  • 従業員重視のコーポレート・ガバナンス(企業統治)……従業員と株主が優先的なステークホルダー、経営者はそれに次ぐ存在。従業員と株主とはステークホルダーとして利害対立を回避されている。

・日本的雇用慣行の形成(小川 2017)

  • 日本的雇用慣行は、古くからの日本文化を継承し、あるいは産業化の初期から存在したというよりも、高度経済成長期(1955〜73年)以降。
  • 高度経済成長期に高等学校進学率が上昇した結果、日本企業は中卒者が多数を占めたブルーカラーを、高卒者で代替して採用する必要に迫られた。高学歴化した労働力を均衡処遇するために企業が出した答えがブルーカラーにも能力主義的な年功制を適用することであった(本田 2005[5]: 53-77)。
  • 企業別労働組合はブルーカラーだけでなく、ホワイトカラーも組合員とする工職混合組合である点が特徴的であった(兵藤 1997[6]: 37-44)。

・日本的雇用慣行の変容(小川 2017)

  • 日本の工業製品の国際競争力が高まった1970年代から80年代には、日本的雇用慣行にもとづく日本的経営が日本経済の強さの源泉として称賛された。新卒採用と一体化した長期雇用や年功制の仕組み、企業別労働組合は、相互に補完し合って雇用保障を可能にする。それによって企業は長期的な視野で従業員への能力開発が可能になる(稲上 1999[7])。こうした日本企業の特徴が結果として、日本の低い失業率や勤勉な労働力を生み出すと考えられてきた。
  • 1990年代に入ると、日本に長期的な不況が訪れて雇用状況が悪化する。不況などにより企業の経営状況が悪化し、大企業の正社員も雇用調整の対象とされた。他方、自営業層や中小企業の雇用者、女性、非典型雇用者など日本的雇用慣行の枠外で働く人々の割合も増える。不況になると企業は、人件費や雇用保障の負担が重い正社員の採用を抑制し、非典型雇用者(=非正規雇用)の活用を進めることになる。

小川慎一,2015a,「組織のなかで働く——雇用システムと賃金のしくみ」小川慎一・山田信行・金野美奈子・山下充『産業・労働社会学——『働くこと』を社会学する』有斐閣,45-70.

長松奈美江,2017,「教育と労働」盛山和夫・金明秀・佐藤哲彦・難波功士編『社会学入門』ミネルヴァ書房

小川慎一,2015b,「多様化する働き方——非正規雇用」小川慎一・山田信行・金野美奈子・山下充『産業・労働社会学——『働くこと』を社会学する』有斐閣

小川慎一,2017,「産業と雇用の社会学」松野弘編『現代社会論——社会的課題の分析と解決の方策』ミネルヴァ書房,53-70.

本田由紀,2005,『若者と仕事――「学校経由の就職』を超えて』東京大学出版会.

兵藤剣,1997,『労働の戦後史 上』東京大学出版会.

稲上毅,1999,「総論日本の産業社会と労働」稲上毅・川喜多喬編『講座社会学6 労働』東京大学出版会,1-31.