監視資本主義の定義(Zuboff 2019=2021: ii, 8-9)

  1. 人間の経験を、密かな抽出・予測・販売からなる商業的慣行のための無料の原材料として要求する、新たな経済秩序。
  2. 商品とサービスの生産が、新たな地球規模の行動修正構造に従属する、寄生的な経済ロジック。
  3. 歴史上前例のない富、知識、力の集中を特徴とする、資本主義の邪悪な変異。
  4. 監視経済の基本的な枠組み。
  5. 産業資本主義が19世紀と20世紀の自然界にとって脅威であったように、21世紀に人間の本質にとって深刻な脅威になるもの。
  6. 社会に対する支配を主張し、市場民主主義に驚くべき挑戦を仕掛ける、新たな道具主義者の力の源。
  7. 完全な確実性に基づく新たな集団秩序を課すことを目的とする運動。
  8. 上からのクーデターとして最もよく理解される、人間の重要な権利の没収——人間の主権の打倒。

 監視資本主義は人間の経験を、行動データに変換するための無料の原材料として一方的に要求する。これらのデータの一部は、製品やサービスを向上させるために使われるが、残りは占有的な行動余剰と宣言され、「人工知能」と呼ばれる先進的な製造プロセスに送られ、わたしたちの行動を予測する予測製品へと加工される。最終的にこれらの予測製品は、新種の行動予測市場で取引される。その市場をわたしは行動先物市場と名づけた。監視資本主義者はこうした取引から莫大な富を得た。なぜなら、わたしたちの未来の行動に賭け金を投じようとする企業は無数にあるからだ。

 これからの章で見ていくとおり、監視資本主義者は、市場競争に後押しされて、より正確な予測を可能にする行動余剰を捕捉しようとする。その余剰とは、わたしたちの声や人格や感情だ。さらに監視資本主義者は、わたしたちをただ観察するだけでなく、説得し、なだめ、調整し、駆り立てることで、より正確な予測を可能にする行動データが得られることに気づいた。競争の圧力がもたらしたこの変化により、自動化された機械処理は、わたしたちの行動を知るだけでなく、形成するようになった。すなわち、わたしたちに関する情報の流れを自動化するだけではもはや十分ではなく、わたしたちを自動化することが目指されるようになったのだ。監視資本主義の進化のこの段階では、ますます複雑化し包括的になる「行動修正」が、生産の手段になる。こうして監視資本主義は、新しい種類の力を生み出した。それをわたしは道具主義と呼ぶ。道具主義者は、他者の目的のために、わたしたちの行動を知ろうとし、あるいは形成しようとする。彼らは、軍備と軍隊ではなく、ネットワーク化された「スマートな」デバイスとモノとスペースからなるユビキタスな計算構造という自動化された媒体を介して、その目的を達成する。この先の章では、こうした操作の成長と普及、およびそれらを維持する道具主義の力を追っていく。現在では、この大胆な市場プロジェクトから逃れるのは難しくなった。たとえば、ポケモンGoの無邪気なプレーヤーを、行動先物市場に投資している店やレストランやバーやファストフード店に誘導して、そこで買ったり食べたり飲んだりさせるとか、フェイスブックのプロフィールから吸い上げた余剰をもとに、その人の行動を形成するといったことが、すでに行われている。その行動には、金曜日のタ方5時45分にニキビ用のクリームを買うことから、日曜の朝、長いランニングを終えて脳にエンドルフィンがあふれ出ている時に、ランニングシューズの宣伝が届いて、購入ボタンをクリックすることや、翌週の選挙で投票することまでが含まれる。産業資本主義が必要に迫られて、生産手段を継続的に強化し続けたように、現在、監視資本主義とその市場のプレーヤーは、行動修正の手段と道具主義の力を継続的に強化し続けている。

 監視資本主義は、初期のデジタルの夢とは逆の方向に進み、アウェア・ホームを古代の歴史に追いやった。それどころか、ネットワーク化にはある種の道徳が伴うという幻想さえ打ち砕いた。つまり、「接続されている」ことは本質的に社会的で、包括的で、当然ながら知識の民主化に向かう、という思い込みを、否定したのだ。デジタル接続は、今では他者の商業目的をかなえる手段になった。その核になっている監視資本主義は、寄生的で自己主張が強い。「労働を餌食にする吸血鬼」というカール・マルクスが描いた資本主義の古いイメージが想起されるが、この吸血鬼は思いもよらない方向転換を遂げた。それが貪り食うのは、労働ではなく、人間のあらゆる経験のあらゆる側面なのだ。


Zuboff, Shoshana, 2019, The Age of Surveillance Capitalism: The Fight for a Human Future at the New Frontier of Power, New York: PublicAffairs. (野中香方子訳,2021,『監視資本主義——人類の未来を賭けた闘い』東洋経済新報社.)p.ii, pp.8-9


アウェア・ホームとはホームオートメーションのシステムを備えた住宅(日本経済新聞社・三菱総合研究所編,1983,『ホームオートメーション——ドキュメント新・産業革命』日本経済新聞社.pp.6-7 https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001638104