パークと人間生態学(吉原 2024)

 パークの人間生態学の特徴は、個人が孤立からはじまって接触を経て相互作用に進む道筋を明示した人種関係サイクル仮説(race relation cycle theory)、そしてそこで鍵概念となっているコミュニティ概念によくあらわれている。人種関係サイクルの第一段階は競争(competition)である。それは最も本能的な相互作用の形態であり、無意識的な過程である。ここではコミュニケーションは未発達である。ところがやがて社会的接触が不可欠なものとなる。その段階であらわれるのが闘争(conflict)であり、個人や集団の間で激しい葛藤が生じる。しかしこの第2段階の闘争も、その内部に育まれる社会統制”合意によって凌駕される。第3段階の応化(accommodation)である。そしてサイクルの最後の段階であらわれるのが同化(assimilation)である。そこで共通の歴史と経験が共有され、多様な文化の融合がみられる。ちなみに、4つの相互作用の型は同時に4つの社会秩序の型に対応しているとされる(表2-1参照)。パークによると、以上の人種関係サイクル仮説において中心的な論点をなすものとして、コミュニティが競争の過程に、ソサエティが闘争→応化→同化の過程に位置づけられている(Park & Burgess 1921-504-10)。そのうえでパークは、コミュニティが生態学的秩序/共棲、ソサエティが道徳的秩序を担うとし、両者は一つの社会の異なった2面であり相互関係にあるが、実際には「コミュニティを下部構造として、その上に上部構造としてソサエティが形成される」としている。そして、人間生態学が守備範囲とするのはコミュニティである、と言明している(Park 1952: 157)。

 ところで4つの相互作用の型によって社会過程を説明し、それにもとづいてコミュニティとソサエティを二分するのは、明らかにジンメルの相互作用概念に原拠している。同時に、アダム・スミスやヴェルナー・ゾンバルトの下部構造論にもとづく交換主義の色調をおびた「生態学的決定論」(2)の様相を呈している。とはいえ、ここでのパークのまなざしは、無意識的で本能的な相互作用である競争がいかにして意識的な相互作用である闘争、応化、同化によって統制されるかという点に向けられていた。特に後期において、合意すなわち社会的統制の過程に主眼が置かれていたのであり、それがパークの人間生態学の基底に伏在する「文化態度」(P・L・バーガー)であった。

表2-1社会過程と社会秩序

社会過程社会秩序
競争経済的均衡
闘争政治的秩序
応化社会組織
同化パーソナリティと文化的遺産

(Park & Burgess1921:510より作成)

 ここであらためて注目されるのは、上述の「生態学的決定論」において、社会の変動を諸要素の対立よりも依存しあう均衡状態においてみようとする均衡論的変動論の立場が垣間見えることである。そこには、人間の本性による同一性の世界が与件とされていた。それはひと言でいうと、「神のみえざる手」が作用するレッセ・フェールの世界を社会ダーウィニズム的な淘汰による再秩序化によって説明しようとするものであった。統合のしくみを人間の本性による同-性の世界から説明しようとするこうした人間生態学の論理は、一方でまぎれもなく先に概観したような歴史的事実から一般性・法則性を抽出しようとする理念型的立場から派生したものであったが、同時にパークらの生きた時代と社会、すなわち1920年代の都市的世界の特異性が影を落としていた。すなわちそれは20年代の都市的世界がその内部にはらんでいた分裂、社会解体の危機にたいするパークの意識を反映するものでもあったのである。

  • 吉原直樹,2024,『都市社会学講義――シカゴ学派からモビリティーズ・スタディーズへ』筑摩書房.pp.40-3