シカゴ学派社会学の移民に対する考え方(ハルツィヒら)

 ジェーン・アダムス(Jane Addams)とシカゴのハルハウス(1889年設立)に住む研究者たちは、次の点を理解していた。「エスニック・ゲットー」は、境界線が引かれているかのように認識されている領域だが、実際は、さまざまな文化をもつ移住者が混じり合い、独特の社会空間が創られた、混沌とした地域だ、ということを。移住者や貧困層全般に関するデータは、改革関連の法案を通過させるため、立法を司る議員たちに情報提供された。

 社会改革・キリスト教倫理、そして登場しつつあった社会学は、一つの領域として統合されていた。研究にはジェンダーが反映されていた。女性についての研究は、現在に至るまで、経験的研究の模範として学問に影響を与えてきた。他方、男性ばかりの大学教員は、移住者の欠陥や同化について議論していた。シカゴ大学社会学部で男性の研究者たちが問うたのは、「移住者は旧世界のやりかたを棄てるのだろうか?政治・社会構造への(想定される)脅威にならないため、古いやり方を変えられるだろうか?」だった。英語圏の中でもイギリスにルーツをもつ国では、議会委員会で、専門家やご意見番にこのような質問が投げかけられたものだ。カナダでは、王室委員会がイタリアやアジアから来た移住者の生活や、どのような欠陥が想定されるか、問うた。アメリカでは、上院議員から構成される移民(「ディリンガム」)委員会によって、41巻にものぼる「報告書」が出版された(1911〜21年)。結果的に重要なデータが集められ、のちの研究の情報源となった。他方、委員会の解釈が人種主義的——自分たちのデータでは証明できないことが多かったにも関わらず——であったことは、切り捨てられてきた。イギリスでは、経済史家ウィリアム・カニンガム(William Cunningham)が、ナショナリスト的な見方から生じる限界を避けつつ、生産者として、また社会へ貢献する人々として、移住者を調査した。『イングランドへの異質な移民』では、世界的な視野に立ち、高い技術を有する移住者を惹きつける「賢い政策」の必要性を訴えた。ところが、議会委員会(1903年)が「異質な移民」に対して出した結論は、1905年の(反)外国人法だった。国民国家体制をとる諸政府は、移住労働者を惹きつけつつ統合させる政策がセットになった経済成長政策に対して、乗り気でなかったのだ。

 シカゴ学派のロバート・E・パーク(Robert E. park)と研究仲間たちは、「同化」を浸透や融合として概念化し、その浸透や融合によって、個人・集団そして社会は共通の文化に到達するだろうと述べた。しかしかれは、既存の制度がもつ飲み込む力を当然視し、エスニック集団や「人種」をより劣った存在とみなしていた。だから、「多からの統一」(e pluribus unum)という標語のように、社会——それがイングランド系白人(かつ男性)のものであることは暗黙の了解——に統合されていくものと考えていた。それでも、当時の文脈でパークは改革派であったし、この時代の過激な白人至上主義に決して屈することもなかった。かれはカーネギー財団の「アメリカナイゼーション」シリーズの編集者だったこともあり、自身の研究よりずっと大きな影響力をもっていた。「同化」は、出身地の文化的特徴の放棄を指す言葉として理解されているが、1980年代以降の研究では、文化変容や順応・挿入・調整といった概念が代わりに用いられるようになってきている。

 民俗学者のウィリアム・I・トーマス(William L Thomas)は、かれ自身が国内移動の経験者だ。もともとは田舎の小さな共同体の出で、南部の大学町を経てメトロポリス・シカゴへと移り住んだ。この移動は、三世紀分の時空を旅したようだった、と感想を述べている。かれは文化人類学的なアプローチで、ポーランドからの移住者のライフヒストリーを研究した。そして、研究者仲間の多くとは対照的に、言語能力なしに、他の文化を研究できないと認めた。ポーランド出身の哲学者であり社会学者でもあったフロリアン・ズナニエッキ(Florian W. Znaniecki)とともに、経験的データについて、文化的に埋め込まれた主観的意味づけ、という概念を発展させ、「ライフヒストリー」を提唱した。ここでいうライフヒストリーとは、移住者の文化に伝記的にアプローチすることである。移住者の文化によって人々の日常は、送出・受入社会の両方の文化による拘束、という文脈に置かれている。移住者の生活における連続性については、『ヨーロッパとアメリカにおけるポーランド農民』のなかで詳述されている(5巻本、1918〜20年)。改革を志す研究者たちのコミュニティは、国境や大西洋を越えて広がっていた。ドイツの社会科学者ゲオルク・ジンメル(Georg Simmel)による「よそ者」についての議論——コミュニティにいるが、その一部ではない——は、アメリカのロバート・パークに影響を及ぼした。


Harzig, Christiane, Dirk Hoerder and Donna R. Gabaccia, 2009, What Is Migration History?, Cambridge: Polity.(大井由紀訳,2023,『移民の歴史』筑摩書房.)pp.107-10