ここで研究対象となったタクシー・ダンスホールとは、アメリカで生まれた風俗的な有料ダンスホールである。都市生活の脱落者たちの巣窟といわれるものの、その当時、実態はよくわからなかった。そこで社会学者クレッシーは、客としてホールに足を踏み入れて調査をおこない、その〈社会的世界〉の成り立ちやこうした施設が生まれる背景を、タクシー・ダンスホールに集う人たちそれぞれの視点から明らかにしていった。
クレッシーは調査によって、「(ホールをひとつの社会的世界に形作る)独自のふるまいや話し方、考え方……がある」ことを発見する。そしてそれらは、ダンサー、客、それぞれの立場や視点からかたち作られていたのだ。
クレッシーによるダンサーの分析をみよう。そこでは、彼女たちの考え方、家族、ライフサイクルの順に調査結果がまとめられた。なぜ女性たちはダンサーになってホールに行くのか――彼女たちにとってホールの魅力は、他人に認められたいという気持ち、新しい経験や興奮への欲求を満たしてくれる場所だからだという点を、調査は明らかにする。クレッシーは彼女たちの生の声を引用してその気持ちを記す。
「あたしは友達をつくりにホールに行ってるんじゃないわよ。あたしはお金を儲けに行くの。……あたしが仕事に利用するのはさ、他でもない自分の『セックス・アピール』なのよ(48頁)」(あるダンサーの言葉)ダンサーの「肉声」で彼女たちの本音を表現する一方、クレッシーは客観的にダンサーをタイプ別に分類し、現場に根ざしたネーミングをする。
- ナイスガール………ダンサー内で最高のタイプ。十分な魅力をもち、決してデートの約束をしない
- スマートガール……自己の利益のために最大限自分の魅力を活用するダンサー
- ネバーミスガール…客に思わせぶりに迫るが、その実、彼女を追いかけている客は少ない。やや落ち目のダンサー
- セクシーダンサー…先の3タイプになれなかったダンサー。美しくなかったり、年をとったダンサーが多い
さらにクレッシーの視線は彼女たちの社会的背景に広がっていく。彼は調査から、ダンサーの出身家庭の多くが問題を抱えていることを明らかにする。家族や地域社会から離れた少女がたどり着く場所のひとつがタクシー・ダンスホールなのだ。家庭環境に恵まれない少女たちが「幾つかの社会的世界を地位下降のサイクルを経ながら渡り歩き、最悪の場合、売春へと転落するキャリア」。こうしたライフサイクルを彼はひとつのモデルとして抽出することに成功する。それは「退行的ライフサイクル理論」と名づけられた。 このようにして、ただスキャンダラスにみられるだけだったダンサーたちを、クレッシーの調査は、本人の心情と社会的背景の双方に目配りして説明し、最後には、ひとつの理論的モデルを生み出すことに成功したのである。
工藤保則・寺岡伸悟,2016,「質的調査の歴史と考え方」工藤保則・寺岡伸悟・宮垣元編『質的調査の方法――都市・文化・メディアの感じ方 第2版』法律文化社,11-8.