タクシー・ダンス・ホール(吉見 1998)

 タクシー・ダンス・ホールとは、プロの踊り子が一定料金で男性客の相手をして踊るサーヴイスのあるダンスホールのことを指す。客は入口でチケットを数枚購入し、踊ってもらうごとに踊り子にチケットを渡していく。踊り子たちはそのチケットを集め、歩合で収入を得る。クレッシーは、支配人と踊り子の女性、男性客の三者の関係に焦点を据えながら、このダンスホールという空間固有の1個の世界としてのありようを捉えていった。たとえば、様々な経路をたどってこの世界に入った踊り子たちは、本名とは別の名前を持っている。この名前には、本名がスラブ系なら仮名はアングロ・サクソン系というように、エスニシティのレベルでの差別関係と上昇への願望が反映されていた。ところが実際には、彼女たちはやがて新人が入ってくると注目されなくなり、再び注目を集めようとしてより劣位のダンスホールへと移っていくのである。クレッシーは、このような踊り子たちの想像上の上昇的な社会移動と実際の下降的な社会移動を対照させつつ、支配人や客のエスニシティにも目を向けた。とりわけ、客にはかなりのアジア系移民が含まれ、自分たちの民族集団のなかで異性の相手を見つけにくい状況にある彼らは、ダンスホールの女たちとの様々な性的関係を持とうとしていったことなどが指摘されている。こうした観点は、後年のエスニシティとジェンダーの差別構造のねじれを問題にする視点とも結びつくものであろう(Cressey 1932)。


吉見俊哉, 1998,「カルチュラル・スタディーズとサブカルチャーへのまなざし」山田富秋・好井裕明編『エスノメソドロジーの想像力』せりか書房, 121-140.pp.122-3