森山至貴,2017,『LGBTを読みとく——クィア・スタディーズ入門』筑摩書房.
ジェンダーという概念の肝の前半は「女らしさ」「男らしさ」の強制でしたが、その中の容姿(服装や化粧など)に関する「女らしさ」「男らしさ」の割り当てに抵抗する人々をトランスヴェスタイト(transvestite)と呼びます(crossdresser クロスドレッサー、とも呼ばれたりします)。例えば「あなたは私が女だから女の恰好をしろ、と言うが、私は男の恰好をしたい」「あなたは私が男だから男の恰好をしろ、と言うが、私は女の恰好をしたい」などとトランスヴェスタイトの人々は主張します。ここで2点補足しておきましょう。第1に、トランスヴェスタイトの人々の性自認はここでは必ずしも問題ではありません。例えば、周囲から(「生物学的に女性だから」などの理由で)女性とみなされ、「女の恰好」でいることを要求される人が「男の恰好」をしたいと望む場合、この人の性自認は男性の場合も、女性の場合もどちらもありえます。第2に、すべてのトランスヴェスタイトの人々が常に異性装(異性の恰好をすること)をして生活しているとは限りません。「周囲の目が許さない」などの理由もありますが、当人がフルタイムでなくパートタイムの異性装を望んでいる場合もあります。