ソホラブ・アフマディヤーン,2020,「クルド人——ふるさとからの声」駒井洋監修・小林真生編『変容する移民コミュニティ——時間・空間・階層』明石書店,38-41.
現在、日本に居住しているクルド人のほとんどはトルコ出身者であるが、近年はイラクやシリアでの内戦から逃れて来日するクルド人も増加している。こうした人々の大半は、日本とトルコとの間に結ばれた相互ビザ免除制度を利用して、短期滞在者として入国している。滞在期限が切れた後は、日本政府に難民認定申請をしている者が多い。
在留の形態としては、難民申請者のほか、在留特別許可を得ている者や正規の在留資格を持たずに滞在している者も多い。また、日本人との婚姻によって滞在許可を得ているケースや、仮放免中のケースも少なくない。
大半の在日クルド人は就労可能な在留資格を持たず、ゆえに、家族を養うために必然的に不法就労にならざるを得ない。また、こうした事情から、医療保険に加入することもできないまま、入管による摘発や収容への不安を抱えながら日本で生活している。仮放免中の義務である出頭の際に突然収容されるケースも報告されており、たとえ仮放免許可が下りたとしても、各収容所長の裁量で決められた保証金を納付しなければならない。そのために、多額の借金を余儀なくされる者も多く、本国への帰国を困難にしている一つの要因といえる。
居住に関しては、一部の地域に集住傾向がみられる。東京、千葉、群馬、名古屋、大阪などの地域に分散して住んでいるクルド人も少数いるが、ほとんどの場合、埼玉県の川口市と蕨市に近居・同居することを選択している。なぜなら、川口市と蕨市の周辺地域はクルド人にとって東京近郊にある工業地帯であり、生活費や住宅費が比較的低く、労働力に対するニーズが高い等、多くの利点があるためである。加えて、様々な外国人を受け入れている同地の歴史は、クルド人にとって住みやすい環境をもたらしている。
同地におけるクルド人の個人生活に目を移せば、経済的な相互依存関係が見られる。長期滞在資格または労働許可を持つクルド人は、建設、解体産業、外食産業等で様々な会社を設立し、他のクルド人を雇用している。聞き取りの結果、当該企業のほとんどの従業員は毎月20万円以上の給与を受け取っていた。 そうした状況により、クルド人同士が集住していることで安心感が醸成されつつ、互いの生活スタイルを保ちながら寄り添える体制が形成されている。また、集団主義はクルド人の文化的特徴であることから、個人主義は忌避され、一人暮らしをする者があまりいないという傾向もある。