不就学の問題と教育を受ける権利(宮島 2023: 120-2)

宮島喬,2023,「移民/外国人の子どもたちと多文化の教育」宮島喬・佐藤成基・小ヶ谷千穂『国際社会学 改訂版』有斐閣,119-35.p.

 欧米諸国の多くは,国籍に関わりなく一定年齢の子どもには就学を義務としている。しかし,日本では外国人には就学義務が課されず,このため当該年齢層の外国人の子ども全員の就学を促すにいたらず,どの学校にも在籍しない子どもも相当数いると思われる。欧米では外国人または民族マイノリティの子どもの最も懸念を呼ぶ教育上の問題というと,学校挫折(school failure)であり,これに数々の研究がささげられてきたが(Rumbaut and Cornelius1995など),日本では,まず問題とされたのは「不就学」だった。
 ここでは「不就学」の語は,いかなる学校にも就学していない者(不就学)だけでなく,就学しているかどうか確認できない者(就学不明者)を含め,広い意味で使う。調査によれば,義務教育年齢の外国人における不就学者は1万2305人と10%を超えている(表7-2)。

 佐久間孝正は外国人の子どもの不就学には5つほどの原因の型があるとし,①本人の学習意欲の欠如,②頻繁な移動や滞在予定の不明など親・家族の行動,③いじめなど人間関係,④日本語指導や受け入れ態勢の不備,⑤「構造化された不就学」,を挙げている(佐久間2006:74)。①〜④もそれぞれ重要だが,⑤のそれは「制度」に関連する不就学であり,ほかと次元がちがうので,最初に述べたい。
 制度的要因でまず挙げられるのは,前記の就学義務の外国人への適用除外である。なぜ外国人には就学義務を課さないのか。それには1952年の国籍切り換えで日本人から外国人とされた朝鮮人の扱いにかかわる歴史的な理由があるが(佐久間2005),今日では,国民の育成を一つの主目的とする義務教育を外国人にも及ぼすのは適当ではないから,と理由づけされることが多い。
 また別の制度的要因として,親が超過滞在など非正規状態であると,子どもの不就学を帰結しやすいという事実がある。非正規滞在者は日本の学校には就学できないという明文の規定はない。しかし非正規滞在者であることを知られるのを恐れる保護者にとり,就学手続きに役所におもむくことは困難となる。NGOや法曹の支援があって子どもの就学が実現する場合もあるが,少数のようである。
 定住外国人の増えている今日,将来日本社会の市民となる子どもたちが就学の機会を逸することがあってはならない。就学義務化があってこそ,すべての子どもの就学への十分な働きかけができ,外国人の教育を受ける権利も実現されるという意見も強まっている(宮島2013)。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です