都市空間のなかに侵入してくるケータイによる「つながりの社会性」(奥村 2010: 45-6)

奥村隆,2010,「行為とコミュニケーション――ふたつの社会性についての試論」『応用社会学研究』52: 37-52.

 行為を出発点とし、贈り手による価値・規範・文化の社会化によってつくられる社会性。コミュニケーションを出発点とし、受け手の選択によって接続されることで生成する社会性。これまでパーソンズとルーマンの議論をごくわずか見ることで(また迂回路としてヴェーバーとジンメルの社会学に関説することで)、このふたつの社会性の相違をとらえようと試みてきた。おそらくルーマンがいうように、前者(20世紀前半の前提!)から後者へと社会性の比重に移動が見られることは確かだろう。だが、この節では、私たちがこのふたつを同時に生きるいくつかの地点を見ていくことにしたい。そこで私たちは新しい社会性の可能性を手にするとともに、新たな困難さとも出会っているように思われる。

 このふたつの社会性の相違とそれが交わる地点をもっとも明示的に指摘したのは、北田暁大の著書『広告都市・東京』だろう。北田は現代の都市空間における携帯電話の使用を論じるなかで、「つながりの社会性」と「秩序の社会性」を区別する。すでに論じたルーマンのコミュニケーション概念から、彼は「ある行為が――誤解されようが、ともかくも――別の行為(理解)へと接続されコミュニケーションが生成する」社会性を「つながりの社会性」、これに対して「誤解の可能性を低める共同的ルール(状況の枠組み)にもとづいて行為を調整する」社会性を「秩序の社会性」と名づける。前者は「行為が行為に接続されること自体を至上課題とし」、後者は「行為の接続が第三者的な視点から見て誤解を含まないものとなることをめざす」(北田2002:153)。たとえば近代的なマスメディアは後者の代表であって「送り手」と「受け手」が同じ状況の枠組みを共有するよう制度化し、「送り手の意図・メッセージが誤解される可能性を低めるという秩序の社会性がマクロな次元で現実化したもの」(ibid.:154)といえるだろう。送り手が誤解されないよう、「正しい解釈」ができるように状況の枠組み(パーソンズ的にいえば価値・規範)を受け手が共有することで社会が成り立つ、という社会性である。

 北田によれば、アーヴィング・ゴフマンが指摘した「儀礼的無関心」は、公的領域(職場)と私的領域(家庭)という「秩序の社会性」が備わった領域のあいだにある都市空間において(これを北田は「空白の時空」と呼ぶ)、「コミュニケーションするつもりはない」ことを示すことで共在する作法ととらえられる(ibid.:155-6)。ところがその空間に、ケータイによる「つながりの社会性」が侵入する。ケータイはいつでも接続されることが可能なメディアであり、だから接続されないこと(「つねに見られることが可能であるにもかかわらずだれにも見られない」こと)がもっとも恐れられるメディアである(ibid.:146-7)。このメディアを手にした人々は、都市空間のなかで「つながりを確認するためにつながろう」とし、「イマ-ココ」にある現実を話のネタにして、どこかにいる友だちとつながろうとする(ibid.:163,165)。こうして「儀礼的無関心」が存在した都市空間に、「つながりの社会性」が入りこみ、イマ-ココの空間的共在を支える「儀礼的無関心」に優越するようになる。このとき、「儀礼的無関心」という「秩序の社会性」が生み出したハビトゥスをもつ人たちは、苛立ちをもって「つながりの社会性」に応対することだろう。北田による「つながりの社会性」の上昇と、ふたつの社会性のあいだの摩擦についての指摘は的確なものだろう。ケータイメールで「ダブル・コンティンジェンシー」が起きたとき、そこではある手を打ってみて、受け手がそれに次の手を接続させるかどうかを待つしかないだろう。ここで規範の共有を求めても仕方ない。ルーマンの「コミュニケーション」の図式のように、ここでは情報/伝達/理解を「選択」する自由によって接続がなされ(またいきなり遮断され)、「相互浸透」の図式のように、コミュニケーションは自己準拠的なシステムとしてケータイ同士で閉鎖的に続いていき、「人間」はその連鎖の「外部」にいる(「もっと良く互いを理解してもいない」ブラック・ボックス!)。北田は、つながりの社会性を「秩序の社会性以上に苛酷な社会性」だと述べる。受け手の接続のみがこの社会性を担保するのであり、つねに「接続を拒否する他者の可能性をぬぐい去れない」わけなのだから(ibid.:161)。だが、この「苛酷さ」は他の側面からも描くことができるだろう。

北田暁大,2002,『広告都市・東京――その誕生と死』廣済堂出版.

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