小松丈晃,2000,「リスクとシステム信頼——批判的リスク論の可能性」『社会学年報』29: 67-91.
Luhmann, Niklas, 1973, Vertrauen: ein Mechanismus der Reduktion sozialer Komplexität, Stuttgart: Auflage. (大庭健・正村俊之訳,1990,『信頼——社会的な複雑性の縮減メカニズム』勁草書房.
確かに、懇切な薬剤師、腕がいいと近所で評判の医者やエンジニアをパーソナルに信頼する(あるいは信頼しない)ことはできる。しかしそうした薬剤師、医者、エンジニアが使用する専門的知識それ自体は、科学システムにおいておこなわれる長大な情報処理過程の一端なのであって、彼らが個人的に作りだしたものではない。彼らが、ある領域の専門家として一定の「権威(Autoritat)」を有するのは、彼らが行使する(科学システムにおいて十分な吟味を経ているはずとされる)専門的知識のゆえ、なのである。たんにその知識を使用するパースン自身が信頼するにたるからなのではない。科学システムにおいて流通している(「真理」とされる)専門的知識を行使することのできるパースンであれば誰でもいいのである。このときの「システム信頼」は、他者もまた科学システムの機能作用を信頼している、ということを信頼するときに成り立つ。言い換えると、第三者がある知識を「真理」として受容してくれることを他者が信頼していることを自分が信頼するとき、自分はある知識を真理として他者にコミュニケーションすることができる。