岡崎宏樹,2018,「相互作用と自己——〈自分らしく生きる〉とはどういうことか」奥村隆編『はじまりの社会——問いつづけるためのレッスン』ミネルヴァ書房,19-35.
朝、先輩に会うとあなたは後輩として後輩らしく挨拶をし、後輩に会うと先輩として先輩らしく挨拶をするだろう。社会生活でさまざまな役割を即座に演じることができるのは、特定の社会状況でどんな態度をとるべきかを習得しており、瞬時に「me」が立ちあがって反応できるからである。一方、初対面の人に会ったときは、「一般化された他者」に対応する「me」が立ち上がり、「はじめまして。どうかよろしくお願いいたします」と儀礼的な態度で挨拶するだろう。もちろん。型に縛られる必要はないので、そこに自分らしい表現や工夫を加えることもできる。「me」に新たな表現を与えるのは「I」の働きである。ミードによれば、社会状況のなかに「I」そのものは現れないが、「I」は「me」を通じて自らを表現する。「me」と違って、「I」の働きは制度化されていないので、創発、創造、抵抗、逸脱の源泉とみなされる。
※一部省略